専門と関心領域

専門分野 : 社会心理学、教育心理学

キーワード:  親密な対人関係、自己発達・変容、集団力学、対人認知、自己開示、役割
         社会的適応

  研究には、2本柱があります。一つは、友人、恋人、夫婦、家族のような親密な対人関係の成立や変容機序を解明すること、もう一つは、そのような親密な対人関係の当事者の自己発達・変容過程を検討することです。
  比較的近年において、私は対人関係の親密化過程について、3位相説という考え方を提唱してきました。この学説は複数の理論的骨子から構成されています。しかし簡単に申しますと、まずは対人関係の親密化過程を「自己開示の交換を通して徐々に明らかにし合った両者の類似点・異質点に基づき、特定な役割行動を遂行するよう期待し合い、当事者間の相互依存性レベルを高め、影響力を増していく過程」と捉えるものです。このように、「自己開示」、「類似・異質性認知」、「役割行動の分担と遂行」という3つの心理事象を位相と捉え、この3位相が対人葛藤を介して循環していくところに、対人関係の親密化がみられるとする考え方であります。
  この3位相説に基づきますと、対人葛藤は親密化の過程に必然的に生起してくること、またこのときの対人葛藤の処理の仕方に応じてより親密な段階に対人関係が進展すること、さらに当事者の自己概念の発達や他者理解の促進が図られることが実証されました。いわば、「喧嘩するほど仲がよい」「雨降って地固まる」などといわれる現象理解に寄与するものでもあります。
  しかしそれだけにとどまらず、この3位相説は、対人関係の基盤には互いの類似性と異質性のいずれもが成立していることが求められる、と仮定されています。すなわち、人と人とが仲良くなっていく過程には、互いに違っていて同じでなければならないと考えられています。ここに対人関係の悩ましさが生じるゆえんがあると考えられます。例えば、教師は生徒に対して、同じでありながら一目置かれるほどに違っていないといけないことになります。闇雲に生徒と同じであろうとすれば、馬鹿にされるだけかも知れません。しかし教師然としているだけでは、疎まれ嫌われることにもなりかねません。教師−生徒の関係だけではなく、上司−部下、親子関係、そして友人関係においても、同様に考えることができます。
  また、この類似・異質性のバランスが崩れてしまうことにより、孤独感が発生したり、逆に存在感や充実感が希薄化し、あるいは自己効力感が低下してしまうことも実証してきました。この研究は、自らの存在意味が確認できなくなる理由について、理解の一助をなすものであろうと考えられます。
  上記の通りに、私は、友人関係だけではなく、職場や家族、学校組織における対人関係など広く研究対象としています。そして、そうした対人関係における人の適応・不適応について検討を加えております。
  なお、最近発表した論文の題目は、「現代青年における対人ネットワークの拡張可能性について:準拠集団としての道具的機能からの検討」というものであります。3位相説から導出される仮説を検討したものでありまして、特に現代青年の対人関係の希薄化や狭さが指摘される中にあって、実態を検証していこうとする目的でありました。しかし、同時にこの研究は、個人的アイデンティティと共に、人の主観的不確実(subjective uncertainty)を減少させる社会的アイデンティティの獲得がどのようにはかられていくかについても、議論の材料を提供できるものであります。そしてもう一つ「アイデンティティと苦闘する若者と大人」では、引きこもり、リストカット、売春、殺人、ネット心中・フレーミングなどの問題を検討しています。このように、人のアイデンティティ獲得や変容の過程における適応は、私が現在検討を試みているテーマの一つとなっています。
  さらには、親密な対人関係における社会的な痛み(social pain)を和らげたり防止するために人が獲得してきた心理的安全装置と、その文化的差異についても、データを収集しております。
  私の研究テーマは、このように、いかにすれば社会生活において人は適応的に暮らしていけるのか、対人場面、対人関係、集団や群衆などの様々なレベルで検討することにあります。